S660が登場した時は心が揺らいだ。何しろビート以来、20年ぶりの軽ミッドシップ2シーターオープンである。ビートオーナーにとっては気にならないわけはない。

連載『ホンダ偏愛主義』。自他共に認めるホンダマニア・元Motor Magazine誌編集部員でフリーランスライターの河原良雄氏が、ホンダを愛するようになった理由を、自身の経験を元に紐解きます。第38回は、「ビートオーナーから見たS660はどうなのよ?」です!(デジタル編集:A Little Honda編集部)

「ホンダ偏愛主義」前回の記事を読むならこちらから!

アメ車的ノーズとヘッドライトが大ウケ!画期的だった空冷エンジンDDAC!

ホンダマニアの弱いもの。

スタイリングはまるで小さなスーパーカー、文句なしにカッコいい。とくに斜め後方から盛り上がったダブルのバルジを見るとゾクゾクするほど。64psのターボエンジンに軽自動車初の6速MT。個人的に軽自動車初という言葉に弱い。「ホンダ、やってくれたね」となるからだ。

当時、ホリデーオート誌の企画で我がビートとS660を乗り比べをした。S660はエンジンがすこぶるトルクフルで扱いやすくて速い。6速のMTの操作も気持ちいいし、トップを外しても風の巻き込みも少ない。欠点を上げれば後方視界が悪いことぐらい。走っている限りは上質で軽自動車とは思えない。助手席側に手を伸ばすとドアに届く、そこで「軽なんだ」と納得するわけだ。

で、ここからがポイント。「楽しいですか?」と訊かれたら「う~ん」となる。クルマとしての完成度はビートを遥かに超えている。20年を経っているんだから当然のこと。でも残念ながらビートに乗っている時のようなワクワク感は薄い。ビートは軽自動車であることを全身で実感する。サイズはもとよりエンジンの頑張りようで。5速で100km/h走行すればタコメーターの針は5000rpmを指し、後方からのエンジン音は半端なく大きい。

軽自動車が80km/hだった時代だけのクルマなのだから仕方ないだろう。対するS660は6速で3000rpm弱で余裕しゃくしゃくだ。でも、ワインディングに持ち込めばビートの方が気持ちいい。8500rpmのレッドゾーンまでフルに使えばオートバイのような感覚でコーナリングを楽しめるのだ。絶対スピードではS660に遠く及ばないが、五感に訴える速さはビートの方が上である。

この差はターボのS660に対してNA(自然吸気)のビートという違いからくるものだ。S660のターボが効き始めてからトルクに乗った走りは豪快と言っていいのだが、そんなに回転を上げずとも十分に速いのである。対してビートはNAだから回さないとパワーは付いて来ない。だから5000rpm以上回さざるを得ない。当然ビートはシフトワークにシビアさが求められる。

しかし、それが決まるとビートとの一体感が生まれるのだ。そう、私の技量ではS660は完全に御することが難しいが、ビートはフルスロットルでも手の内にあるような気がするのである。

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.